遺言書を作成する際のポイント ~財産を与えたい相手が自分より先に亡くなる場合も想定して遺言書を作りましょう~
【事例】
Aが遺言で、「土地1は長男Bに相続させる。土地2は長女Cに相続させる。」としていたところ、Aが亡くなるより先に長男Bが亡くなった場合、代襲相続人であるD(Bの子供。Aの孫。)は、この遺言により土地1を相続できるのでしょうか?
【結論】
この場合、特別な事情がない限り「土地1は長男Bに相続させる」という部分の遺言の効力は無効となります。よって、土地1については、相続人全員が法定相続分で相続するか、相続人全員で遺産分割協議をして取得者を決定する必要があります。
【理由】
最判平成23・2・22民集65巻2号699頁は次のように判示しています。
「『相続させる』旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該『相続させる』旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。」
【実務上、遺言書を作成する際のポイント】
以上のように、ある相続人にある特定の財産を「相続させる」旨の遺言をした遺言者より先に、その名宛人である相続人が亡くなった場合、その財産について受取人不存在となり、その条項について遺言の効力を生じないのが原則です。名宛人である相続人の子が、遺言書記載の財産を代襲相続することはできません。
☆そのため遺言者は、遺言書を作成する際に、遺産を相続させる推定相続人が死亡した場合にその相続人の子に取得させたい場合には、『当該相続人が遺言者より先に死亡した場合は、その子供に当該遺産を相続させる』というように予備的・補充的な条項を設けておくのが望ましいといえます。
なお、「相続させる」という文言は、相続人に対しての遺産分割方法の指定という意味合いとなりますので(最判平成3・4・19民集45巻4号477頁)、「相続させる」という文言が使えるのは相続人に限られます。
他方、「遺贈する」という文言は、遺言により財産を他人に無償で与えることですので、与える相手は相続人のことも相続人でないこともあります。また、民法994条1項により、「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない」と定められています。よって、【事例】のような場合にも、受遺者の子が代襲して財産を取得することはありません。
-
最新の記事
- 次世代経営者へのバトンタッチ
~自社株(非上場株式)等の相続税・贈与税の納税猶予の特例~ - 高齢者の生活と資産を守るための「家族信託」の活用事例
- 認知症の人の所有住宅 221万戸
- 終活と遺言
- 生命保険金の非課税枠
- 生前贈与~子や孫へ財産を引き継がせる方法
- 遺言信託とその公示
- 遺留分制度の改正により、遺留分及び遺留分侵害額の算定方法が明文化
- 配偶者居住権を活用した節税メリットとリスク
- おしどり夫婦贈与(贈与税の配偶者控除)
- 住宅取得資金等の非課税の特例
- 秘密証書遺言書
- 配偶者なき後問題
- 10年以上取引がない預金はどうなるのでしょうか?
- 相続財産になる前に、不動産の所有権を放棄できるのか
- 法務局における遺言書の保管等に関する法律について
- 単身高齢者の相続
- 空家問題 その3
- 孫への生前贈与
- 空家問題 その2
- 次世代経営者へのバトンタッチ
-
月別
- 2024年4月 (1)
- 2022年9月 (1)
- 2021年9月 (2)
- 2020年9月 (1)
- 2020年6月 (1)
- 2020年3月 (1)
- 2020年1月 (1)
- 2019年12月 (1)
- 2019年7月 (2)
- 2019年5月 (2)
- 2018年12月 (1)
- 2018年11月 (1)
- 2018年9月 (1)
- 2018年8月 (1)
- 2018年7月 (1)
- 2018年6月 (1)
- 2018年5月 (2)
- 2018年4月 (1)
- 2018年1月 (1)
- 2017年10月 (1)
- 2017年8月 (1)
- 2017年7月 (2)
- 2016年9月 (3)
- 2016年5月 (1)
- 2016年3月 (1)
- 2016年2月 (1)
- 2016年1月 (1)
- 2015年10月 (1)
- 2015年9月 (1)
- 2015年7月 (1)