ペットがいる場合の生前対策
1. はじめに
ペットを家族の一員のように飼育している方は大勢います。
少子化の日本においては、今や子どもの数よりペットの数の方が多いほどです。
他方、ペットは法律的には人間ではなく「物」として扱われます。
このように、ペットに対する飼い主の感情と法の扱いの間には大きなギャップがあります。
このギャップのために、飼い主は日常的に色々なペット問題に直面することになるのです。
今回は、認知症などの健康上の問題や亡くなったことによりペットを飼育できなくなってしまう場合に備えた生前対策について解説します。
2. 相続によりペットはどうなるの?
人間の家族の場合には相続の制度により遺産を承継することになるため、これにより、亡くなった人に扶養されていた方は遺産を活用して生活することができます。
しかし、ペットは人間ではないため、当然相続人になることはできません。
また、ペットは、そもそも法律上の権利の主体になることはできないため、遺産をペットに承継させることはできません。
飽くまでもペットは「物」であり、亡くなった方の所有物、つまり遺産の一部として、権利の客体になるに過ぎません。
つまり、相続により、ペットは遺産の一部として相続人に承継されることになるのです。
3. まずは、ペットを大切に世話してくれる人を見つけよう!
ペットの生前対策の第一歩は自分の代わりにペットを大切に飼育してくれる人を見つけることです。
そのような人が見つかれば、あとは自分が飼育できなくなった場合にペットの飼育を任せる方法を検討することになります。
なお、身近にペットの飼育を任せる人がいない場合には、動物愛護団体などの法人に飼育を任せるのでも構いません。
4. ペットの飼育を安心して任せる方法とは?
4-1. 負担付遺贈
ペットの飼育を任せる方法の第1は負担付遺贈になります。
遺贈とは、遺言において、特定の人物に遺産を承継させる意志を表明するものです。
ここで、負担付というのは、ペットという財産を承継するのに付随して飼育費等の負担を負わせることになるためです。
注意すべきは、負担付遺贈は飽くまでも遺言における飼い主の一方的な意志の表明によりペットの飼育を任せることになるところ、飼育を頼まれた側はこれを拒否できる点です。
また、飼育を頼まれた側が大切に世話をしてくれないリスクは残ります。
そこで、負担付遺贈する際には、①事前に飼育を任せる人と協議して飼育のために必要となる財産(金銭)を同時に遺贈するなどの対策、②遺言執行者を指定して負担付遺贈の負担の履行つまりペットの飼育を監督してもらうなどの対策を講じる必要があります。
4-2. 負担付死因贈与
第2は負担付死因贈与です。
これは飼い主の死亡を原因としてペットを特定の人物に飼育という負担を負う形で贈与する契約です。
負担付遺贈に似ていますが、贈与は飽くまでも当事者の合意により成立するものであり、少しでも負担を履行すれば解除できない、つまり拒否できない点において、拘束力の強い制度になっています。
負担付死因贈与は口頭でも可能ですが、内容を明確にしておく意味でも、後の紛争を回避する意味でも書面できれば公正証書として残しておくとよいでしょう。
4-3. ペット信託契約
最後はペット信託契約です。
信託契約とは、ペットのために、その飼育を目的として、飼い主の財産の管理・運用・処分を委託する契約です。
ペット信託契約のメリットは2点あります。
まず、信託した財産は相続財産にはならないため、相続との関係によりペットの飼育のための財産が失われることはありません。
また、信託契約の場合、飼い主の財産の管理・運用・処分を任された者は信託の目的を実現するためにしっかりと任務を遂行する義務を負い、これを監督する者を選任することができるた め、他の制度と比較すれば安心してペットの飼育を任せることができます。
他方、信託契約を利用する場合には、他の制度と比較して費用の掛かる場合が少ないため、この点はデメリットといえます。
現在ではペット用の信託を取り扱う信託銀行や信託会社が存在しますから一度相談だけでもしてみるとよいでしょう。
5. まとめ
ペットは家族の一員でも、法律上は「物」として扱われてしまいます。
そのため、ペットに遺産を承継させることはできません。
そこで、もしものときに備え、ペットの飼育を任せる方法を事前に検討しておく必要があります。
ペットの飼育を任せる方法は、主として、①負担付遺贈、②負担付死因贈与、③ペット信託契約 の3つあります。
それぞれ、メリットとデメリットがあるため、慎重に比較検討しましょう。
近年、少子化傾向と相まって、特にペットを子どものように飼育する方々が多くなっています。
それに応じて、ペットのいる場合の生前対策についての相談窓口は増えてきています。
愛するペットが最後まで幸せに生きていけるよう生前対策はしっかりしておきたいものです。