相続税の申告
多くの方にとって相続税という税金にはあまりなじみがないかと思います。会社から支給される給与から天引きされている所得税や住民税、買い物をする際に支払っている消費税とは何が異なるのでしょうか。
相続税とは、人が死亡した際に所有していた財産(不動産、預貯金など全てです)を相続によって配偶者や子供などが取得した場合に、その引き継いだ財産の価額(価値)に対して課される税金です。したがって、相続税の納税義務者は相続人など財産を受け取った人であり、相続税の申告書を作成し提出する義務も財産を受け取った人にあります。
では、家族が亡くなり、財産を受け取ることとなった人全てが相続税を申告し納付する義務を負うのでしょうか?
実際はそういう訳ではありません。相続税 の計算には「基礎控除」という財産の総額から一定額を引くことができる制度があり、これが相続税の非課税枠となっています。引き継ぐ財産の総額がこの金額を上回らない限り相続税申告をする必要も納税をする必要もありません。
この基礎控除の金額はいくらなのでしょう?これが最近大きく変わりました。平成26年までは、5,000万円に相続人1人あたり1,000万円を加えた金額が基礎控除として遺産総額から引くことができました。
つまり、例えば夫が亡くなり妻と子供2人が相続する場合(相続人3人)、8,000万円までは相続税がかかりませんでした。ところが税制改正により、平成27年から基礎控除額は、3,000万円に相続人1人あたり600万円を加えた金額に減りました。すなわち、先ほどの相続人が妻と子供2人のケースの基礎控除額は4,800万円となりました。
これまで、「相続税は一部のお金持ちが納める税金」と思われていた方も多いかと思いますが、この改正によりそうとも言えなくなりました。今や相続税は身近な存在なのです。
相続税額の計算は大まかに言うと、遺産総額から基礎控除を差し引き、そこに税率を乗じて算出されます(法定相続人が複数いる場合、計算が少々複雑になります)。相続税率は財産額が大きくなるほど高くなり、最高は55%となります。この税率の高さに一瞬驚いてしまいますが、相続税には様々な優遇制度もあります。
例えば、相続人のうち配偶者は法定相続分(上のケースでは2分の1)か1億6,000万円のどちらか多い金額までの相続財産には相続税は課されません(「配偶者軽減」と言います)。また、親族が亡くなった方の自宅や事業を行っていた場所の土地を引き継いだ場合に相続税が軽減できる特例措置などもあります(「小規模宅地等の特例」と言います)。
こういった特例を利用するためには、遺産分割を完了させるなど一定の要件を満たす必要があります。遺産額が大きくなるほどこういった特例を利用した場合の税額へ影響も大きくなるため、十分な検討が必要となります。
相続税申告の期限は、亡くなった日の翌日から10ヶ月以内で、延長はできません。もしこの期限を過ぎてしまうと、無申告加算税や延滞税といったペナルティも併せて課税されてしまいます。
亡くなった方の残した財産の総額を把握することは意外と時間のかかるもので、不動産の名義変更や銀行預金の解約など、相続人が他に行わなければならないことまで考えると、10ヶ月という期間は瞬く間に過ぎてしまいます。
いざという時に慌てずに済むよう、また無用な税金を納めずに済むよう、多くの方々が相続税に関する知識や情報をなるべく正確に把握しておきましょう。