生前贈与~子や孫へ財産を引き継がせる方法
弁護士 伊藤 亜矢子
はじめに
相続税の節税をお考えの方は、どのような方法で子や孫へ相続財産を引き継がせようか悩まれますが、相続税の節税とセットで考えなければいけないのが贈与税の節税です。
そこで、今回は、政策的な目的から相続発生前に財産を引き継がせるときの贈与税の優遇制度を中心にご紹介したいと思います。
暦年贈与
受贈者一人につき年間110万円までは贈与税の基礎控除の範囲内のため、贈与税がかかりません。したがって、金銭の贈与は、簡単で有効な節税対策のため、すぐにでも実行することができます。
ここで注意点があります。相続又は遺贈により財産を取得した者に対する相続開始前3年内の贈与は、相続財産に加算しなければなりません。そのため、親から子への贈与よりも、相続で財産を取得する予定がない孫への贈与をおすすめします。
相続時精算課税
子や孫に対する生前贈与につき、相続時精算課税を選択すれば、2,500万円までは、贈与税がかかりません。ただし、その名の通り相続時に精算することになり、相続財産に加算して相続税を計算することになります。相続財産に加算しても相続税がかからない方にとっては、贈与税も相続税も非課税となりますので有効な節税対策となります。
加算されるのは、贈与時点の価額ですので、贈与時から相続時まで価値が上がる事が見込まれる不動産、又は、収益物件は贈与後の収益が受贈者の財産になりますのでこれらの贈与も有効な節税対策といえます。
一旦相続時精算課税を選択すると、暦年課税に戻ることは出来ません。
暦年贈与から相続時精算課税にいつ切り替えるかがポイントとなります。
教育資金の一括贈与
子や孫への教育資金に充てるための贈与は、受贈者一人につき1,500万円までは贈与税がかかりません。贈与をした日から3年以内に贈与者が死亡した場合において、残高がある場合には、相続財産に加算しないといけないのですが、受贈者が23歳未満である場合などの要件を満たせば加算の対象外となりません。
そもそも扶養義務者間の教育資金の贈与自体が非課税ですので、相続発生までに期間がある場合は、その都度贈与をすればよいのですが、相続発生までの期間が短い場合は、一括で贈与が出来ますので有効な節税対策といえます。2013年に制度が出来てから申し込みが多数あり(2019年3月時点で22万件)現時点では令和3年3月までの制度となっておりますので、適用を受ける方は急がれた方がよいでしょう。
住宅取得資金の贈与
子や孫へ住宅の新築、取得又は増改築等に充てるための金銭の贈与をした場合は、非課税限度額までは、贈与税がかかりません。
★非課税限度額 (新築等に係る対価等の額に含まれる消費費税が10%の場合)
契約の締結日 | 省エネ住宅等 | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
平成31年4月1日~令和2年3月31日 | 3,000万円 | 2,500万円 |
令和2年4月1日~令和3年3月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
令和3年4月1日~令和3年12月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
生前贈与は、対策をされる方々の家族の状況、ご年齢、財産の状況など様々ですので、これらの状況を総合的に勘案して、その方々にとって最善の方法を選択し、ご家族の皆様がご納得して実行し、後の争いの種とならないように配慮することも大切です。
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