高齢者の生活と資産を守るための「家族信託」の活用事例
※こちらの記事は2022年9月8日までの情報を元に作成しています。執筆時点以降の事情変更により記事の内容が正確でなくなる可能性がございます。
引用しているウェブサイトについても同様にご注意ください。
家族信託とは
最近、「家族信託」という言葉を耳にされることが多いかと思いますが、「家族信託」とは、委託者が信託契約などによって信頼できる受託者(家族や親族)に財産を移転し、信託財産の管理・処分等を任せるというものです。これは、家族の生活や財産を守るという目的の家族のための信託契約といえます。
信託の登場人物は、①委託者②受託者③受益者の3者となります。
- 委託者:信託財産のもとの所有者で、信託設定者
- 受託者:委託者から信頼され、信託財産の管理・処分等を託された者
- 受益者:信託財産から生じる利益を受ける者
家族信託の活用事例
では、弊所で取り扱った実際の活用事例をご紹介したいと思います。(多少内容を変更しております。)
【事例】高齢の父の認知症対策
親族関係:父、母、長女、次女
信託財産:賃貸マンション4棟及び現金
高齢の父は、自身が認知症になった時に、毎月の生活費の引き出しや、不動の管理等ができるかどうかが不安になり、信頼する長女を受託者として、長女と信託契約を結びました。
認知症になった場合には、意思能力がなくなりすべての法律行為が出来なくなります。
委託者が賃貸不動産を所有している場合には、賃貸不動産に係る修繕や保険契約の締結、不動産の売却、その他生活に必要な預金の引き出しなども出来なくってしまうのです。
そこで、まだ意思能力のあるうちに、信託契約を締結し、財産の管理等を受託者である長女に任せることにしました。
認知症になった場合には、成年後見制度も考えられますが、成年後見制度は、被後見人の財産の保全を目的とすることから、厳しい監督下に置かれますので事実上不動産の売却等財産の処分が不可能となります。
家族信託契約を結んでおけば、受託者の権限で不動産の売却をすることができます。
家族信託の手続き
- 委託者と受託者との間で、公正証書により信託契約書を作成します。信託銀行に口座を開設するときは、事前に、信託銀行にて、信託契約書のチェックを受けます。本事例では、委託者の都合により、信託契約書を私文書で作成することになりました。
- 信託銀行に口座開設した場合は、委託者の口座から金銭を引き出し、開設した受託者名義の口座へ金銭の預け入れをします。信託法においては「財産の分別管理義務」が規定さてれおり、信託財産は、受託者の固有財産と区別して管理をしなければいけません。本事例では、もともと受託者が所有していた受託者名義の口座の残高をゼロにしてから、委託者の口座から受託者の口座へ資金を移動しました。
- 不動産については、受託者に所有権を移転する登記手続きを行います。
- 収益不動産については、賃借人に、賃貸人の地位及び権利義務を委託者から承継した旨を伝え、賃料の振込口座の変更通知をします。その他、保険会社によっては、保険契約者の名義変更手続きが必要となる場合もあります。
税務上の取り扱い
法人税法と所得税においては、「信託の受益者がその信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、その信託財産から発生する収益や費用は、その受益者の収益及び費用とみなして計算する。」こととされております。(法法12①)(所法13①)
本事例の場合、委託者と受益者が父で同一人物であるため、父が賃貸不動産を所有するものとみなして、毎年の所得税の確定申告をします。
ここで、留意しなければいけないのが、「信託から生ずる不動産所得を有する場合において信託による不動産所得の損失の金額は生じなかったものとみなす。」という「損益通算不可」の規定です。(措法41の4の2)赤字が見込まれる不動産を信託すると、その他の不動産所得の黒字と損益通算が出来なくなってしまいます。
また、本事例では、委託者=受益者であるため、贈与税は課税されませんが、委託者≠受益者で信託を設計しますと、受益者が適正な対価を負担しない場合は、信託契約の効力発生時に、受益者に対して贈与税が課税されます。(相法9条の2①)不動産の場合は、相続税評価額にて贈与税の課税価格を計算します。
そして最後、受益者が死亡し信託が終了したときに、帰属権利者である長女が受益者から残余財産を遺贈により取得したものとみなされ相続税の課税対象となります。(相法9条の2④)
本事例では、遺留分の問題を避けるため、次女に対しても別で信託契約書を作成しました。
家族信託は、委託者が認知症になってからでは契約が締結できません。
父が認知症になる前に契約を結ぶことにより、安心安全かつ平穏無事な生活や財産を守るという目的が達成されることとなります。
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