相続放棄の取消し
(1)相談事例
当事務所グループに相談にいらっしゃったAさん。話を伺うと、先日Aさんの母親が亡くなり、相続人はAさん、Bさん(Aさんの弟)の2名でしたが、Aさんは、父の遺産はいらないと考え、相続放棄をしていました。
よくよく話を伺うと、Aさんは、Bさんから「父には3000万円の借金がある」という説明を受けたので相続放棄をしたとのこと。しかし、その後、実際には借金はなく、Bさんの話が嘘だとわかったということでした。
Aさんはどうすればよいでしょうか。
(2)相続放棄の取消し
相続放棄の申述が受理されると、相続の開始を知ってから3カ月が経過する前でも、相続放棄の申述を撤回することはできません(民法919条1項)。
しかし、相続放棄も法律行為としての意思表示であるため、取消しをすることができます(民法919条2項)。
相続放棄の取消しをするためには、家庭裁判所に取消しの申述をしなければなりません(民法919条4項)。管轄は、相続放棄の申述と同様、相続開始地の家庭裁判所となります。
相続放棄の取消しができるのは、次の場合です。民法919条2項に定められています。
①未成年者が法定代理人の同意を得ないで単独でした場合(民法5条)
②成年被後見人自らがした場合(民法9条)
③被保佐人が保佐人の同意を得ないでした場合(民法13条)
④詐欺又は強迫によってされた場合(民法96条)
⑤後見監督人がある場合に、後見人がその同意を得ずに被後見人を代理してした場合(民法864条、865条)
⑥後見監督人がある場合で、後見人がその同意を得ずにした同意に基づいて未成年被後見人がした場合(民法864条、865条)
申立書には、申立の理由を記載する必要がありますので、上記①~⑥に該当する具体的事情を記載することとなります。
(3)Aさんがとりうる方法
Aさんは、第三者の詐欺によって相続の放棄をした場合にあたると考えられますので(上記(2)の④)、家庭裁判所に相続放棄の取消の申述をすることで、相続放棄の効力を否定し、被相続人であるお母さんの遺産を相続することができると考えられます。相続放棄取消しの申述が受理されて初めて、相続放棄の遡及的な無効を主張することができるのです。
なお、相続放棄の取消権は、追認をすることができるときから6か月以内に行使しないと、時効によって消滅します(民法919条3項)。Aさんの場合には、取消しの原因となっていた状況が消滅した時(詐欺に気付き正常な判断が出来る様になった時)から、6か月(民法124条1項・126条前段)以内に行使しないと、相続放棄の取消権は時効によって消滅します。また、相続放棄の時から10年経過したときも、行使することができなくなります(同条同項)。
(4)(3)のAさんに対し、Bさんがとりうる方法
Aさんの相続放棄取消の申述が受理された場合でも、取消事由の存否について既判力が生じるわけではありません。そのため、取消に不服のある利害関係人(Bさん)は、後日、別訴で取消事由の存否を争うことが可能です(名古屋高金沢支判昭42・11・15判時503・44)。
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