相続の効力等に関する改正・見直し
1 はじめに
相続は被相続人の死亡により当然に発生します。
しかし、被相続人の死は近しい人でなければ知ることができません。
また、相続人は相続により被相続人の遺産を承継するところ、遺産についての権利の移転は人の目に見えません。
そのため、相続に無関係の第三者は相続による遺産の承継の事実を知ることなく、不測の不利益を被る可能性があります。
この点について、法律・判例では、第三者との関係における相続の効力を規律しています。
平成30年改正相続法では、従前の相続の効力等の規律について変更されることになりました。
以下、改正の内容について詳しく解説します。
2 相続の効力と対抗要件の要否
2-1 相続の効力に関する平成30年改正相続法の改正点
平成30年改正相続法では、相続による権利の承継は法定相続分を超える部分については対抗要件を備えなければ第三者には対抗できないとのルールを新設しました。
2-2 対抗要件とは?
対抗要件とは、財産に対する権利の取得・喪失を第三者に主張するための要件をいいます。
たとえば、ある不動産を売買により購入した場合、当該不動産の所有権を第三者に主張するためには所有権の登記をしなければ、その所有権を第三者に主張できません。ここでの対抗要件とは所有権登記することになります。
2-3 従来の相続の効力と対抗要件の要否はどうなっていたの?
従来の法律・判例では、相続による遺産の承継に関する対抗要件の要否については、以下のように、遺産の承継の原因に応じて異なるものでした。
まず、遺産分割と遺贈により遺産を承継した場合には、登記・登録などの対抗要件を備えなければ法定相続分を超える遺産の承継を第三者に主張することはできないとされ、この部分は今回の改正相続法により影響はありません。
次に、相続分の指定と特定の遺産を相続させる旨の遺言により遺産を承継した場合には、登記・登録などの対抗要件を備えることなく、これを第三者に主張できるとされ、この部分につき今回の改正相続法において変更されることになりました。
2-4 相続の効力に関する今回の相続改正法の影響を具体例に即して確認してみよう!
【モデルケース】
被相続人:A
相続人:B(長男)・C(長女)
遺産:不動産甲
遺言:不動産甲はBに相続させる
上記ケースにおいて、相続開始後、Cの債権者Dは不動産甲の登記名義はAのままであるため不動産甲につきCの法定相続分に応じた部分について差押しました。
従来はBの不動産甲の承継は登記(対抗要件)を備えることなく第三者であるDに対して主張できたためDによる差押は失敗に終わりました。
しかし、改正相続法の下では、Bは登記を備えなければ不動産甲の法定相続分を超える部分の承継を第三者であるDに主張できないため、Dの差押は功を奏することになります。
3 相続債務の承継に関するルールの明文化
相続では、正の財産だけではなく、負の財産すなわち借金も承継します。
それでは、被相続人の遺言により、法定相続分とは異なる借金の承継を指定した場合、債権者は遺言の内容に拘束されてしまうのでしょうか。
この点について、従来の民法では明文のルールはなく、判例において、遺言において法定相続分とは異なる借金の承継を指定した場合でも、債権者との関係では、原則として、各相続人は法定相続分に応じた債務の履行を負担する義務を負うとされていました。
今回の改正相続法では、この判例上のルールを明文化することになりました。 たとえば、Aは遺言において生前の1000万円の借金の承継について、長男Bは8割、長女Cは2割と指定していたとします。
この場合でも、債権者は、相続人B(長男)・C(長女)に対して、各法定相続分1/2に従いそれぞれ500万円の返済を請求することができます。
但し、長男Bの資力は十分であり、遺言の内容に従った履行を請求したいときには、債権者は遺言の内容に従った借金の承継について承諾した上、Bに800万円、Cに200万円を請求することもできます。
4 まとめ
平成30年改正相続法では相続の効力等について改正されています。
具体的には、①相続による遺産の承継につき法定相続分を超える部分については登記・登録などの対抗要件を備えなえれば第三者に主張することはできないルールの新設、②借金などの相続債務は遺言により法定相続分とは異なる割合での承継を指定されている場合でも債権者との関係では原則として法定相続分に応じた履行義務を負うことの明文化の2点です。
相続による遺産に関する権利・義務の承継は、外部の第三者には容易に知ることのできないものであるため第三者の利益の保護を図る必要があります。
今回の相続の効力等に関する上記2点の改正は、法定相続分とは異なる権利・義務の承継により不測の不利益を被る可能性のある第三者を保護する趣旨のルール改正になります。
相続により被相続人の権利・義務を承継した際には、その効力を誰に対してでも当然に主張できるわけではないということに留意しましょう。