遺言制度に関する改正・見直し
1 はじめに
平成30年改正相続法では従来の遺言制度について改正しています。
具体的には、①自筆証書遺言の方式の緩和等、②遺言執行者の権限の明確化等です。遺言は死亡後の自己の財産の帰属を決める生前の意思表明であり相続における非常に重要な制度の1つです。
今回は平成30年改正相続法における遺言制度の改正・見直しについて詳しく解説します。
2 自筆証書遺言の方式の緩和等
2-1 これまでの制度では自筆証書遺言は全文を自書しなければならなかった!
遺言とは死亡後の自己の財産の帰属を決める生前の意思表明です。
遺言の方法は、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3つあります。
このうち自筆証書遺言とは遺言の内容を全文自書する方法の遺言であり、最も簡易に行うことのできる遺言の方法です。
しかし、従来、自筆証書遺言は全文を自書しなければならなかったため、特に財産の多いケースでは財産目録を自書する負担は非常に大きいものでした。
そのため、簡易に行うことのできる遺言の方法であるにもかかわらず、自筆証書遺言を作成することに躊躇してしまう問題がありました。
2-2 自筆証書遺言は紛失・改ざんリスクの大きい遺言!
自筆証書遺言を作成した後は、これを死亡まで大切に保管しなければなりません。
しかし、実際、自筆証書遺言を保管する場所は主として自宅となるため、死亡時までに紛失してしまうケースの発生することがあります。
また、保管場所を知っている相続人であれば遺言の内容を自己の有利となる内容に改ざんしてしまうこともできます。
せっかく苦労して作成した遺言書でも死亡時に発見されなければ意味がありません。
2-3 平成30年改正相続法における改正・見直し
2-3-1 自書によらない財産目録等を添付することができる!
平成30年改正相続法では、まず、従来の負担の大きい自筆証書遺言の方式について、全文自書の要件を緩和して、パソコン等を利用して作成した財産目録や通帳の写しを添付することを認めることにしました。
自筆証書遺言において自書を求める趣旨は遺言作成者の真意を担保する点にあるところ、財産目録のような形式的記載の部分についてまで自書を求めることは過度の要求であり、当該財産の帰属に関する意志表明について自書を求めればよいとされたわけです。
2-3-2 自筆証書遺言の保管制度の新設
次に、自筆証書遺言の紛失・改ざんリスクの対応策として、自筆証書遺言の公的機関による補完制度を新設しました。
具体的には、自筆証書を法務局において保管する制度です。
そして、この保管制度を利用すれば、法務局は、遺言書の方式をチェックするため家庭裁判所の検認手続は不要となり、また、相続人のうちの1人による遺言書の確認による他の相続人に対しての遺言書の存在についての通知等をしてくれます。
2-4 遺言制度に関する改正・見直しの適用される時期
上述の平成30年改正相続法における遺言制度の改正・見直しの適用される時期は自筆証書遺言の方式の緩和については2019年7月1日、自筆証書遺言の保管制度については2019年1月13日(既に適用されています。)以降に適用されます。
3 遺言執行者の権限の明確化等
遺言執行者とは遺言の内容を実現するために選任される者です。
従来、相続人は遺言執行者の存在や権限について明確に知ることができないためトラブルの発生することがあったことから、改正相続法では、この点を明確にされました。
3-1 遺言執行者の就任の通知
第1に、遺言執行者は就任の際、その旨及び遺言の内容を相続人に対して通知する義務を負うことになりました。
3-2 遺言執行者の権限の明確化
第2に、遺言執行者は遺言の内容を実現するため遺言の執行するための一切の権限を有すること及び遺言執行者の権限内の行為については直接に相続人に対して効力を有することを明確にしました。
4 まとめ
平成30年改正相続法では、従来の遺言に関するルールの問題点について改正しています。
具体的には、①自筆証書遺言の方式の緩和等、②遺言執行者の明確化等です。
自筆証書遺言については、従来では全文自書を要件としていたところ、改正法ではパソコンを利用した財産目録、通帳の写しの添付を認め全文自書の要件を緩和しました。
また、自筆証書遺言の法務局による保管制度を新設して、自筆証書遺言の紛失・改ざんを防止することができるようになりました。
遺言執行者については従来の権限の明確でないところ見直し、法律上、その就任の事実を相続人に通知することを義務とした上、遺言執行者の権限内の行為については直接に相続人に対して効力の発生することを明確にしました。
このような遺言制度に関する改正については、自筆証書遺言の方式の緩和については2019年1月13日、その他の改正については2019年7月1日より適用されます。
遺言は死後の自分の財産の帰属についての意志を表明する大切な問題です。
今回の遺言制度の改正について分からない点のある場合には一度弁護士等の専門家に相談してみましょう。