公開日:2026年4月17日、更新日:2026年4月17日
遺言などを準備して「これで安心」と思っていても、実際に相続が発生したら家族が揉める原因のひとつとして挙げられるのが「遺留分」への理解不足です。
「特定の子に多く遺したい」、「事業承継を進めたい」などの希望を優先するあまり、他の相続人の取り分(遺留分)を考慮していないと、思わぬトラブルになることがあります。ここでは、遺留分の仕組みと、事前にできる対策をわかりやすく解説します。
すでに相続手続きを進めていて、弁護士や専門家に相談してみたい、サポートを受けつつ進めたいと思っている方は下記からお気軽にお問い合わせください。
一部の相続人には最低限の取り分が設定されています。これを遺留分と呼びます。そして、それが侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」ができます。
遺留分侵害額請求という聞きなれない名前ですが、裁判など大きな手続きが必要になるわけではありません。相手方に意思表示するだけで請求は可能ですが、遺留分侵害額請求には時効・除斥期間(相続開始および遺留分侵害の事実を知ってから1年、または相続開始から10年が経過)があるため、明確な意思表示があったという証拠を残すために「内容証明郵便」で通知することが推奨されます。
遺留分を請求できる人は、亡くなった方の兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者、子、父母などの直系尊属のみ)です。兄弟姉妹は相続人であったとしても遺留分はありません。
各人にどれだけ取り分があるのか、どのように計算するかなど遺留分に関するさらに詳しい情報は弊所相続サイトで解説していますので合わせてご確認ください。
| 遺留分の割合open_in_new |
遺留分の算定open_in_new |
遺留分の対象となるのは、単に亡くなった時点で残っている財産だけではありません。
生前に行われた一部の贈与も、条件によっては相続財産に持ち戻して計算されます。
これらは、実質的に遺産の一部とみなされて遺留分の計算に含まれることがあります。
「どの財産が対象になるか」は法律上の判断が複雑なため、早めに専門家に確認しておくことが大切です。
次のような状況では、意図せず「遺留分侵害」とみなされることがあります。
遺言などの生前対策を進める前に、自分の家庭に似たものがないか、あったらどのように対策したらいいのか、次で確認してみましょう。
遺留分を侵害しない範囲で財産を分けることが、最も根本的で確実なトラブル回避策です。
財産が多く、不動産や株式などの「分けにくい資産」が多く含まれる場合は、一部の財産を売却して現金化し、バランスを取るという方法が有効です。現金を確保しておけば、実際に相続が発生した際に柔軟な調整がしやすく、侵害額請求の余地を小さくすることができます。
逆に、財産が少なく自宅や少ない預貯金しかないというケースでは、こうした現金化による調整が取りにくい場合もあります。そのようなときこそ「どう分けるか」よりも「どう理解を得るか」を意識した設計が大切です。
たとえば、自宅を相続する子が実際にその家に住み続けるのであれば、評価額の上では高く見えても、すぐに売って現金に換えられるわけではありません。見方を変えれば、現金化できない財産を持つ側は、その不便を引き受けているという側面もあります。つまり「家の評価が高い=得をしている」と一概には言えないということを理解してもらうことが必要です。
また、理解を得る方法として以下のような手段が考えられます。
これらの工夫によって、「なぜこのような分け方にしたのか」という背景を家族が理解しやすくなり、結果的に納得度の高い相続につながります。
財産が限られている場合でも、評価や生活状況を丁寧に見直し、家族が受け入れやすい形に整理しておくことで、遺留分をめぐるトラブルを防ぐことができます。単に法定相続分どおりに分けるよりも、暮らしを守りながら公平を意識した分け方を考えることが、最も現実的な対策といえるでしょう。
遺留分が認められている人は、それを放棄することもできますが、被相続人の生前であれば家庭裁判所の許可を得ないと無効になってしまいます。
必ず、本人が家庭裁判所に放棄する旨の申立てをしてください。
相続開始後であれば、申立ては不要です。
| 遺留分の権利放棄についてさらに詳しい解説はこちらopen_in_new |
不動産や事業資産など、現金のように簡単に分けられない財産がある場合には、家族信託(民事信託)や生前贈与を活用しておくと、後々の争いを防ぎやすくなります。
受益権(信託された資産から得られる利益を受け取る権利)の割合を調整したり、信託財産を段階的に承継させることで一度に大きな偏りを生まないようにすることができます。
| 家族信託についてさらに詳しい解説はこちらarrow_forward |
遺留分の計算上、生前贈与の一部は相続財産に持ち戻されることがありますが、それでも生前贈与として「なぜこのように分けたいのか」という本人の意思を伝える方が、遺言で突然偏った指定をされるより家族が納得しやすいというメリットがあります。
また、学費・結婚祝いなど、親の子に対する扶養義務の一内容や、親としての通常の援助の範囲内でなされた贈与は、遺留分の算定に含まれません(※不動産の名義変更など相続分の前渡しと評価されるような大きな財産移動は、たとえ家族間の支援の意図であっても、裁判所から通常の援助の範囲外とみなされるリスクがあります)。 この扶養・通常の援助の範囲外の贈与かどうかは、個別の事情により判断されますので、判断に迷う場合は、個人で進めずに専門家に相談したうえで進めることが大切です。
| 生前贈与についてさらに詳しい解説はこちらarrow_forward |
遺留分侵害が起こらないようにするわけではありませんが、家族の理解を得ながらトラブルのリスクを分散させるプロセスとしては有効です。ただし、制度の設定には、法務・税務の両面の知識と長期的な見通しが必要になるので、専門家に相談しながら、遺留分への影響を見据えて設計することが不可欠です。
次は、生前の名義変更や家族内の約束が、実際にはどのような法的評価を受けるのか、典型的な事例を紹介します。
父が生前に次女とその子どもへマンションの一室の持分(所有権)をそれぞれ2分の1ずつ贈与していましたが、父の遺産はわずか2万円ほどの預金のみだったため、長女が遺留分侵害額請求を起こした事例。(東京地方裁判所判決/令和4年(ワ)第25259号)
7年前、母の相続時に「父の世話を条件に長女は遺留分を行使しない」と約束していたが、その約束を覆して遺留分を請求した訴えは認められるのか(家庭裁判所の許可を経ていない「遺留分不行使の合意」に効力があるか)
父が生前に、自宅マンションの一室を次女とその子に贈与し、さらに管理費(約80万円)を支払っていたが、これが生活支援の範囲内として扱われるのか、それとも遺留分の算定対象となるか(生計の資本として遺留分算定の基礎財産に含まれるか)
被相続人:父
相続人:長女(原告)と次女(被告)の2人
生前の経緯:父が生前に、次女とその子にマンションの所有権を2分の1ずつ贈与
残された財産:預金2万円ほどのみ(他の財産はなし)
以下の理由から、次女の遺留分侵害を認め、次女に対し、約385万円とその利息(年3%)を支払うよう命じました。
よって、父が生前にマンションを贈与し、登記まで変更していた行為は、「生計の資本としての贈与」と判断されました。
管理費(約80万円)は年十数万円程度の小口の支出であり、同居生活の中での相互負担とみなされたため、遺留分算定の対象には含まれませんでした。
この事例は、「トラブルを避けたつもりが、別の形でトラブルになってしまった」典型的なケースです。
トラブル回避のために合意をしても、法律上有効とされなければ、後々合意に反して遺留分侵害額請求権等の権利を行使することができます。そのため、トラブル回避のために行ったことが、後から紛争につながってしまうこともあります。
自宅の名義変更や多額の贈与は、家族の意図とはまったく別の法律効果(遺留分・納税・特別受益など)を生じさせる可能性があります。今回のように「善意のつもり」で行った行為が、かえって大きなトラブルの火種となることは珍しくありません。
生前の名義変更や家族間の合意こそ、個人判断ではなく必ず専門家に相談することが何より重要です。
可能です。完全に防げるわけではありませんが、登記変更後でも遺言の付言事項(※法的拘束力はありません)や家族信託の活用、贈与契約書の作成などで遺留分トラブルを減らせます。
将来的に遺留分をめぐる争いが予想される場合は、早い段階で関係者に事情を説明し、必要であれば各相続人が家庭裁判所に「遺留分放棄」の申立てを行うことで、リスクを大きく下げることができます。
交渉で解決すれば早く終わりますが、調停や裁判に進むと半年〜1年以上かかることがあります。弁護士費用は、着手金20万円~+経済的利益に応じた報酬が一般的です。調停や裁判に移行するとその分費用も増えていくため、早めにご相談いただいた方が結果的に時間や費用を抑えられることがあります。
家族間の合意だけでは無効で、本人が家庭裁判所に「遺留分放棄」の申立てをして許可を得る必要があります。放棄の理由や事情を示す資料が必要になるため、事前に家族間で事情を共有し、専門家に相談したうえで進めるとスムーズです。
まずは贈与の経緯や金銭のやり取りを整理し、証拠となる書類やデータを確保することが重要です。支払う必要がある金額はケースによって大きく異なるため、早めに専門家へ相談し、交渉方針を決めて進めることをおすすめします。
このページでは遺留分でトラブルにならない方法についてご紹介してきましたが、相続対策には様々なアプローチがあります。以下の診断ではあなたがどんな相続対策から始めたらいいかを簡単に知ることができますので、是非ご活用ください。
どんな相続対策が自分にあっているか分からない方、何から始めればいいか分からない方は、まず「あなたの相続対策タイプ診断」をご活用ください。
また、生前にしっかりと準備をしていても、いざ実際に相続が発生すると「まず何をすればいいのか」、「誰に相談すればいいのか」迷うことも少なくありません。
そんなときに備えて、相続が発生した後に役立つ基礎知識もまとめています。
| 相続放棄arrow_forward 3か月以内の申述が必要なため、早めの判断が大切です |
遺産分割協議arrow_forward 相続人全員の合意で進める必要があります |
相続税の申告arrow_forward 不動産・金融資産の有無により要否が変わります |
遺留分侵害額請求の時効は1年と短く 、紛争が調停・裁判に移行すると時間も費用も増えてしまいます。
名古屋総合法律事務所では、事務所内で弁護士・司法書士・税理士が連携し、複数の専門領域にまたがる相続の問題に一つの窓口で対応が可能です。手遅れになる前に、どうぞお気軽にご相談ください。